最初はPICマイコンの電源の回路です。将来必要になる知識のためにちょっとだけ深入りしておきます。
今回の説明
回路を完成させるために以下の順序で説明しています。この記事の説明は「(2) PICマイコンのベース回路を組み立てる」のPICマイコンに電源をつなぐ回路を作成するステップになります。
- LEDを電池と抵抗のみで光らせる回路を組み立てる
PICマイコンの回路を組み立てる前に、まずはブレッドボードに慣れておくことにします。電池、抵抗、LEDのみを使って、ブレッドポード上に回路を組んでLEDを光らせてみます。ここでは電池、抵抗、発光ダイオードの回路記号と回路図の説明をして、回路図からブレッドボードに組む方法を説明します。まずはブレッドボードに慣れましょう! - PICマイコンのベース回路を組み立てる
はじめの一歩の回路は、LEDを1秒に1回光らせるだけの回路です。この回路をブレッドボードに組み立てます。 - プログラムを作る
LEDを1秒に1回光らせるプログラムを作成します。 - PICマイコンに書き込んで動作させる
作成したプログラムをPICマイコンに書き込んで動作させてみます。 - ベース回路にスイッチを追加
LEDの点滅をスイッチで開始させるために、ベース回路にスイッチを追加します。これまではLEDを光らせる、という出力制御をしましたが、今度はPICマイコンで外部から信号を入力する方法を確認します。 - ベース回路にブザーを追加
スタートスイッチ付きの、1秒に1回光らせる回路を作りましたので、ブザーを追加してタイマーとして完成させます。
PICマイコンに電源をつなぐ回路
PICマイコンを動作させるために、電源をつなぐ必要があることは説明しました。電源は、PICマイコンの1番ピン(VDD)にプラス、8番ピン(VSS)にマイナスをつなぎます。配線は以下のようになります。
なお、このように実際の部品の接続状態を示したものを「実体配線図」と呼んでいます。
電源の接続はこれでとりあえずOKです。基礎編で作成するLED1個を点滅させる程度の回路であれば、特にこれで問題ありません。
ただ将来、規模の大きい回路を作成するようになると、この接続では問題が出るケースがあります。今回はその問題と対策について説明します。また、この対策はPICマイコンに限らず、いろいろな場面で使用されていますので、是非覚えておきたい項目です。
ということで、この入門シリーズで作成する回路にもこの対策を入れることにします。対策の仕方も重要なポイントがありますので、実装することにより確認しておきます。(っていっても、まだ何のことやらよくわからないですよね。説明を読めば「そうなんだ」って感じになると思います)
以下のように説明を進めようと思います。
- 問題とは?
- 対策に使用する電子部品
- 対策を入れた実体配線図
- 対策を入れた回路図
- 実際の回路図
問題とは?
先ほどのようにPICマイコンに電源を接続すると、電池からPICマイコンへの配線が必要になりますよね。
この配線などの金属部分は電気的にはアンテナのような役割になってしまい、外部の電気的なノイズの影響を受けることがあります。
そのため、PICマイコンは電源の配線によってノイズの影響も受けてしまいます。
このノイズの影響を受けるとPICマイコンは誤動作をすることもあります。
そこで、このようなノイズなどの影響を低減する必要があります。
対策に使用する電子部品
対策に使用する電子部品とは、「コンデンサ」という部品です。コンデンサにはいろいろな種類や役割があり、詳しく説明するとかなり難しい内容になってしまいますので、性質だけ説明しておきます。これ以外にもいろいろな性質がありますが、この基礎編で必要な知識は以下の2点です。
- (ちょっとだけ)電気をためておくことができる
- 電気的ノイズの影響を緩和することができる
次に、コンデンサについて説明します。今回使用するコンデンサは以下のようなものです。コンデンサは非常に多くの種類がありますので、Googleの画像検索などでコンデンサを調べてみてください。
また、コンデンサは接続の向き(「極性」と呼びます)があるものもないものもあります。このコンデンサは接続向きはありません(「極性がない」と言います)。
電子回路記号は以下になります。
コンデンサには多くの種類がありますので、それに対応して電子回路記号も他に種類があります。今回使用するコンデンサはこの記号になります。
ノイズの影響を避けるために、このコンデンサをPICマイコンのVDDとVSSピンの間に接続します。
電源とPICマイコンを接続する電線はある程度長さがあります。これがアンテナになってノイズの影響を受けることがあります。そこで、このコンデンサは物理的にPICマイコンの電源ピンのすぐそばに接続する必要があります。
ところで、以前説明した抵抗には値がありました。コンデンサにも値があります。コンデンサの場合は容量といって、ファラッド(F)という単位を使います。数が大きい方がより多くの電気をためることができます。
今回使用するコンデンサの容量は 0.1μF(マイクロファラッド)です。なお、基礎編と応用編ではコンデンサはこの1種類しか使用しませんので、値の読み方については説明を省略します。(抵抗ではカラーコードで数字を表現して、その数字から実際の値を導きましたが、コンデンサの場合は数字が書いてあり、ほぼ抵抗と同じように実際の値を導きます)
なお、このコンデンサのことを「バイパスコンデンサ」略して「パスコン」と呼びます。マイコンを使った製作記事などでは「パスコン」と説明されることが多いので、この用語も覚えておいてください。
対策を入れた実体配線図
実体配線図は以下のようになります。PICマイコンの電源ピン、VDDとVSSのすぐそばに接続するのがポイントです。
対策を入れた回路図
実体配線図ができましたので、今までの電子回路記号を使用して回路図にしてみます。
いくつか補足する必要がありますので説明します。
まず、コンデンサの単位はマイクロファラッドで、記号で書くと、「μF」となります。コンデンサの単位はFと決まっていますので、Fは通常記載しません。また「μ」という文字は半角英数字では入力できないので、「μ」の代わりにアルファベットの中で形が一番似ている “u” (小文字のユー)を使用します。このパスコンですが、回路図上ではマイコンから離れて書かれていることもあります。回路図を見て、マイコンの電源ピンにコンデンサが接続されている場合、それはパスコンですので物理的な接続位置に注意しましょう。
また、配線が交わるとことで、接続する場合としない場合で表現方法が異なります。
線が交差しているところで、接続する場合は黒丸をつけ、接続しない場合はそのままにします。
実際の回路図
これで電源を接続した回路図ができました。
ただ、実際の回路図は一般的にはこれとは異なるかきかたとなりますのでそちらを説明します。
まず電源ですが、乾電池を指定する場合など、電池を使うことが決まっていれば電池記号を書くことがありますが、電源を記載しないこともあります。その代わりに、プラス側に接続する記号を
というようにかきます。この記号は「VDD」や「VCC」と呼ばれます。回路図によってはこの記号のすぐそばに「VDD」などと記載されいることもあります。
またマイナス側に接続する記号を
のいずれかでかきます。このマイナス側の記号はグランド記号と呼ばれ、回路図では「GND」や「VSS」と記載されていることもあります。
なお、GND記号はこのように種類がありますが、本来はそれぞれ違う意味があります。ただ、詳しく説明しようとすると、そもそも「グランドとは」という深い話になってしまいます。また、実際にはそれぞれの記号が正確に使われていないことも多いので、このシリーズ記事では説明は省略いたします。
先ほど作成した回路図を書き直すと、
となります。だんだん実際の配線とは違ってきてしまいました。電子回路図が初めての方は「実際の配線からだいぶ離れてきてるけど、電子回路の世界は大丈夫なのだろうか…」などいろいろ不安や疑問が出てきたかもしれません。そんな感じのところ申し訳ないのですが、もうちょっと簡略化します。
これでどうでしょうか。(「どうでしょうか」って言い方はないですが…)
経験的に、パスコンの描き方はこのタイプが一番多いように思います。
もう一度おさらいすると、電子回路図はあくまでも電気的な接続を表現しているだけで、実際の部品の配置とは関係ない表現になります。ただ部品の中にはパスコンのように、配置に注意が必要なものがありますので、回路図を読み取る時に注意してください。
「そんなの電子回路図から読み取れるの?」ってご意見があるとは思いますが、残念ながらその通りです。知らないと読み取れないので、申し訳ないのですが、これは一つ一つ覚えていくしかないです。
なんか最初からこんなこと言われてしまって、大変そうだし心が折れそうな気もしますが、配置に注意が必要な部品・回路は、今回のパスコンのように必ず理由や背景がありますので、そこをきちんと理解すれば大丈夫です。
このようなことから考えると、電子回路図とか電子工作の世界って、ちょっと職人的なところもあるような気がしますよね。電子回路ってなんとなく人工的な印象がありますが、動作自体は自然現象です。自然を相手に作品を作り上げる職人さんに近いものがあるのかもしれません。
これでPICマイコンに電源関連の回路ができました。気づくと、だいぶ実体配線図から離れてきました。実体配線図と電子回路図、何度も見比べてみて、頭のなかで変換できるようにしておきましょう。
次回はLED関連の回路をつくります。
更新履歴
日付 | 内容 |
---|---|
2016.7.10 | 新規投稿 |
2018.11.5 | 一部の図を更新 VDD、GNDの説明を補足 |
2024.8.16 | 説明内容を一部変更 |
電流制限抵抗は要らないのでしょうか?
ご質問どうもありがとうございます。
電源回路ですので、電流制限は必要ありません。
電流制限が必要な回路は、一例を挙げるとLED点灯回路です。LEDは電源に直接接続すると電流は流れるだけ流れてしまいますので、LEDに流れる電流を抑えるために例えば抵抗を接続する、などの電流を制限するための対策を行います。
一方、この記事にある回路のような電源供給回路では、電流制限はしません。逆に電源回路で電流制限のために抵抗を入れてしまうと、その抵抗により電圧が下がってしまい、回路が不安定になってしまいます。
もう少し身近な例で説明すると、家庭にあるコンセントは電流制限をしていません。家庭にあるコンセントで例えば電流を「1Aまで」などのように制限してしまうと、電子レンジやドライヤーなど電流を多く使用する電気機器が使用できなくなってしまいます。
ただ、制限なく電流を使用すると電線が発熱して火災になってしまいますので、家庭用の電源は40Aなど、電気の元栓で制限しています。
わかりづらい説明で申し訳ございませんが、わからない点がありましたらまたご質問いただければと思います。
返信ありがとうございます。ICを使ったことがあるにも関わらず大ボケをかましてしまいました