今回は電源回路の設計です。
特定電圧の電源
今回製作するシステムでは、各部品の動作電圧を考慮すると3.1V〜3.6Vの範囲内の電源が必要です。
この範囲の電圧は、電池の組み合わせで作ることは難しいですよね。
また、仮に電池の組み合わせで作れる電圧の場合だとしても、別の問題が出てきます。例えば3Vの電圧が欲しい場合、使い捨ての乾電池は1本1.5Vですので、2本使用すれば3Vが得られます。
一見問題なさそうですが、電池は使い始めは高めの電圧で、使っているうちに電圧が下がってきます。使い捨て乾電池は、未使用状態では1.6Vぐらいありますが、使っているうちに1.4Vぐらいになってしまいます。安定した電圧が欲しい場合、このような理由で、電池を電源として使うのは無理そうですよね。
今回必要な動作電圧は3.1V〜3.6Vで、電圧が変動した場合の許容範囲は3.6V – 3.1V = 0.5Vですので、この電圧範囲に収まる安定した電源が必要になります。
そこでこの記事では、安定した特定の電圧を作る回路の設計を行います。また、今後ご自分で何かを製作される場合に特定の電圧が必要になった時のことも考慮して、回路設計の注意点も詳しく説明します。
ところで、基礎編と応用編では電池ボックスをそのまま電源として使っていましたが、そのような使い方で問題なかったのでしょうか。
PIC12F1822は動作周波数として1MHzを設定していました。1MHz動作の場合、データシートによると電源電圧は1.8V〜5.5Vの範囲であれば動作します(ただ、あまりにも電圧が低いとLEDは暗くなりますし、ブザーは鳴らないかもしれませんが…)。電源電圧の多少の低下があっても動作上は問題なかったので、電池ボックスを電源としてそのまま使用していました。
今回のシステムは、PIC12F1822とは違った電源回路が必要になりますので、これから設計していきましょう。
3端子レギュレータとは
特定の電圧が必要な場合「3端子レギュレータ」という電子部品を使用すると簡単に電源回路が作れます。なおこの製品は「定電圧レギュレータ」「シリーズレギュレータ」などとも呼ばれますが、いずれも同じ製品のことを指しています。
3端子レギュレータは、概念的には以下のような動作をする電子部品です。
3端子レギュレータには入力と出力があり、入力に出力電圧より高い電圧を加えると、出力に一定の電圧が出力されます。
例えば今回使用する3端子レギュレータ(通販コードI-00538)は、入力に4V〜29Vの電圧を加えると、入力電圧にかかわらず出力の電圧は3.3Vになります。入力電圧が5Vの時も10Vの時も、出力電圧は3.3Vになる、というちょっと不思議な電子部品です。
実践編では、基礎編と応用編で使用してきた4.5Vまたは5Vの電池ボックスの電源を入力電圧とします。入力電圧が4V〜29Vの範囲でしたら出力電圧は3.3Vになりますので、電池ボックスの電圧が徐々に下がってきたとしても、3.3Vの安定した電圧が得られることになります。
「3端子レギュレータ」は以下のような外観の部品です。なお、実践編のシステムを試作した時は左側の製品が販売されていたのですが、2018年3月時点では販売されていません。そこで、どちらか入手できた部品を使用することにします(カッコ内は秋月電子通商さんの通販コードです)。
「3端子レギュレータ」は名前の通り3つの端子(リード線)があります。「レギュレータ」は「調整器」の意味ですが、他の分野でも使われているので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。たとえばスキューバダイビングでは空気が充填されたボンベを背負って海に潜りますが、ボンベの空気は高圧ですのでそのまま吸うことはできません。そのため「レギュレータ」という装置で圧力を落としてからその空気を吸っています。このように「レギュレータ」は電圧や空気圧などを「圧」を調整する製品で使われている用語です。
3本のリード線は、「Vin」「Vout」「GND」という名前が付いています。どのリード線がどの名前のものかは製品によって異なりますので、使用する時はデータシートを確認するようにします。今回使用する部品のリード線は、ブレッドボードを組み立てる時に一緒にデータシートで確認しましょう。
基本的な使い方は、以下のように「Vin」に電源を接続すると、「Vout」に特定の電圧が出力されます。
入力電圧はある程度の幅があります。またその電圧の範囲は製品により異なっています。今回使用する3.3V/500mA(I-00538)または3.3V/1A(I-00534)の入力電圧は以下のようになっています。
製品 | 入力電圧範囲 |
---|---|
3.3V/500mA (I-00538) |
4V 〜 29V |
3.3V/1A (I-00534) |
3.8V 〜 16V |
これら2つの製品の違いですが、入力電圧範囲以外に、流すことのできる電流の最大値が異なります。3.3V/500mAの製品は500mAまで、3.3V/1Aの製品は1Aまでとなっています。ただし、この電流の最大値はどのような状況でも流せるわけではないので注意が必要です。注意点に関しては若干難しい内容を含むため、補足記事として別にまとめます。
ところで、これらの製品の出力電圧は3.3Vですが、他の出力電圧の製品はあるのでしょうか。実はよく使用される電圧は一通り製品化されています。以下のサイトは秋月電子通商さんの3端子レギュレータ製品のページです。
このページを見ると、「1.8V」「2.5V」……などいろいろな電圧が用意されています。例えば「1.8V 3端子レギュレータ」は出力電圧が1.8Vの製品です。なお、入力電圧範囲と電流最大値は製品ごとに異なります。
では、欲しい電圧がこれらの製品にない場合はどうしたらいいのでしょうか。その場合は上のサイトページの最後の方にあります、「可変型」の3端子レギュレータを使用します。
例えば、以下の製品は出力電圧は、出力電圧を1.2Vから37Vまで自由な値に設定できます。
となると、ちょっと疑問が出てきます。このような可変型の3端子レギュレータがあるのであれば、とりあえずこの製品を買っておけばよさそうですよね。だって、1.2Vから37Vまで好きな値に設定できるのであれば、3.3Vが必要なときは3.3Vに設定すればいいですし、他の電圧が必要になった時でも、この製品を持っていればその電圧に設定して使えばいいですし。
固定電圧の3端子レギュレータと可変型の3端子レギュレータではそれぞれメリットデメリットがあります。
可変型の3端子レギュレータは、出力電圧を設定するために追加の回路が必要になります。具体的には、抵抗を何本か接続する必要があります。そのため、可変型では出力電圧が自由に設定できるのはメリットですが、追加の回路が必要になる、というデメリットがあります。
当然ながら、固定電圧の3端子レギュレータは、可変型に必要な追加回路は必要ありませんが、出力電圧は固定になってしまいます。
今回製作するシステムでは3.3Vの3端子レギュレータを使用しますが、この部品を選択した理由は以下の通りです。
まず、部品点数を少なくしたいため、固定電圧の3端子レギュレータにしました。また、今回製作する部品の動作電圧範囲は3.1V〜3.6Vになりますので、この範囲にある固定電圧の3端子レギュレータ、ということで3.3Vの3端子ギュレータを選択しました。
3端子レギュレータの概略がわかったところで、実際の使い方の説明に進みましょう。
3端子レギュレータの実際の使い方
3端子レギュレータは、上に説明した接続をすればとりあえず一定の電圧が出力されますが、実際の回路を設計する場合は追加の部品が必要になります。
追加の部品は以下の目的で必要になります。
- 対策1) 3端子レギュレータを安定動作させるための部品
- 対策2) 出力電圧を安定させるため部品
いずれの対策も、その背景と対策のための理論は電子回路の詳細な知識が必要になりますので、詳しい説明は省略いたします(説明すると1つのシリーズ記事になってしまうぐらいです)。そのため、表面的な説明になってしまい申し訳ございませんが、それぞれの対策方法を説明します。
3端子レギュレータの製品パッケージには、以下のように3端子レギュレータ本体以外に2つの電子部品が付属されています。
一番右は「積層セラミックコンデンサ(0.1μF)」です。この部品は今までも使っていたのを覚えていますでしょうか。基礎編の第10回で説明しましたが、この部品は、PIC12F1822の電源回路において、PIC12F1822本体が電力不足になった時にちょっとだけ電力を補給する目的と、ノイズ対策の目的がありました。
真ん中は、このシリーズでは初めて出てくる種類の部品で「電解コンデンサ(47μF)」と呼ばれているものです。コンデンサの容量(=貯めることのできる電気の量)は「F(ファラッド)」で表されますが、先ほどの積層セラミックコンデンサの0.1μFに比べると、こちらのコンデンサは47μFありますので、470倍もの電気を貯めることができます。
それでは、上のあげた2つの対策方法を説明します。
対策1) ノイズ対策
3端子レギュレータのノイズ対策の基本は、入力端子に入ってくるノイズを軽減です。ここまで説明すると、なんとなく使う部品と回路が想像できそうですよね。
使用する部品は積層セラミックコンデンサで、容量は0.1μFが一般的です。基礎編・応用編でPIC12F1822に接続したコンデンサと同じですよね。3端子レギュレータの場合は、入力端子に入ってくるノイズを軽減するために、以下のように接続します。
これでノイズ対策の回路はOKです。回路記号や回路図の読み方を忘れてしまった場合は、基礎編の第10回を確認してみてください。
また、このコンデンサは3端子レギュレータのノイズ対策用ですので、PIC12F1822の時と同様に、ブレッドポードに回路を組み立てる時は、極力Vin端子とGND端子の近くに配置します。
なお、3端子レギュレータのノイズ対策としては出力端子にも接続することがありますが、今回のシステムでは入力端子のみの対策で十分だと思います(ノイズは試行錯誤の要素が強い分野です…)。
対策2) 出力電圧安定化
出力電圧を安定化するために、容量の大きなコンデンサを出力端子に接続します。容量は47μF〜100μFが一般的です。
このような電圧を安定化させる場合のコンデンサは「電解コンデンサ」を使用します。このコンデンサは、積層セラミックコンデンサとは異なり、極性(プラスとマイナス)がありますので注意してください。
コンデンサは、金属の薄膜を向かい合わせにした部品ですので、プラスもマイナスも関係ないように思いますよね。金属の薄膜は、容量を大きくするためになるべく近づける必要があります。そのまま近づけるだけではどこかで接触してしまいますので、金属の薄膜の間に何かを挟みます。
挟んだものがセラミックの場合は「セラミックコンデンサ」、フィルムの場合は「フィルムコンデンサ」と呼ばれます。
電解コンデンサは、金属(アルミニウム)の薄膜の間に紙を挟みますが、さらに容量を大きくするために片方の薄膜を電気的処理し、もう片方の薄膜はそのまま使用します。このように2つの金属の処理が異なる関係で、極性が出てきてしまいます。逆につなぐとコンデンサが劣化し、故障の原因になりますので、ブレッドボードで回路を組み立てる時は注意しましょう。
電解コンデンサの回路記号は以下のように極性のマークがつきます。
また、実際の電解コンデンサでは、本体にはマイナスのマークが印刷されていて、プラス側のリード線が長くなっています。ブレッドボードに差す帰途にリード線を切ってしまいますので、リード線の長さからは極性の判別ができなくなります。本体にマイナスのマークが印刷されていますので、それを頼りにブレッドボードを組み立てます。
それでは、3端子レギュレータの回路に戻りましょう。電解コンデンサは出力側の電圧を安定化するために接続しますので、回路図は以下のようになります。
この回路が3端子レギュレータを使用するための最小構成の標準的な回路になります。
なお、ノイズが多い場合は先ほど説明した追加のノイズ対策コンデンサが必要になることがあります。また使用する3端子レギュレータや回路によっては追加の部品が必要になります。
また、ご自分で作った回路で3端子レギュレータを使用する場合、いくつか注意点があります。3端子レギュレータの特性に合わせないで回路を設計すると、場合によっては異常に発熱して煙が出たりすることもあります。
これらの追加の部品や回路設計の注意点については、補足記事として別にまとめます。
実践編の回路ではこのような問題は発生しませんのでご安心ください。上の最小構成の標準的な回路で問題ありません。
三端子レギュレータについて、最後に補足をして説明を終わりにしたいと思います。
コンデンサについてはさらに役割があります。それは、三端子レギュレータの発振を防止する役割もあります。こちらについてはオペアンプという回路素子の理解も必要になりますので、詳細説明は省略いたします。
ただ、市販の三端子レギュレータにコンデンサが付属している場合は、そのコンデンサを使用するようにしてください。というのは発振を防止するコンデンサは容量の値が限られているため、メーカー側としては「発振しないようにこのコンデンサを使ってください」という意図で付属していることもあります。
またデータシートでは、発振防止のための推奨コンデンサが記載されていることもあります。
回路図
3端子レギュレータの使い方がわかりましたので、システムの電源の回路の設計をしましょう。回路設計は以下の順番で進めます。
- 電池と3端子レギュレータで3.3Vを作る回路
- PICマイコンへの電源供給
- PICマイコンのパスコン
それでは順番に回路図を設計していきます。
1. 電池と3端子レギュレータで3.3Vを作る回路
3端子レギュレータの使い方は先ほど説明しましたので、電池から3.3Vを作る回路はなんとなく想像がつくと思います。回路図は以下のようにすればOKです。特に説明の必要はないと思いますが、何か疑問点があればコメント欄からご質問いただければと思います。
2. PICマイコンへの電源供給
3.3Vの電源回路ができましたので、PICマイコンの電源とします。PIC16F18857は、VDDが1ピン、VSSが2ピンあります。VDDを3.3Vのプラス側、VSSをマイナス側に接続すればOKです。
3. PICマイコンのパスコン
PIC12F1822の時と同様に、パスコンを接続します。VDDとVSSピンの間に0.1μFの積層セラミックコンデンサを接続します。本来でしたら、VSSが2ピンありますので、2個接続した方がいいと思いますが、1個でも問題ないと思いますので、19番ピンと20番ピンの近くに接続することにします。
さて、、、、、、、、
大した部品数ではないのに、なんだか線が目立ち過ぎませんか???
この先、この3.3Vの線をセンサ2個とLCDモジュールにも接続するんですが、この調子で3.3Vの線を描いていたら、ゴチャゴチャしてくるのは目に見えています。そこで、PIC12F1822の時にVDDとVSSの接続を簡略化しましたが、それと同じ手法でVDD(3.3Vのプラス)とVSS(3.3Vのマイナス)を簡略化します。
3.3Vのプラスの線は赤のように、マイナスの線は青のように表現します。同じ色の表現は接続されていることを意味しています。この先、センサやLCDモジュールを接続する際、3.3V電源にはこのように接続します。
なお、この簡略化がよくわからないようでしたら、基礎編の第10回の記事を見返してみてください。
これでPICマイコンの電源関係の回路図設計は終わりました。
3端子レギュレータの回路を設計する際に必要な注意事項などは次回の補足記事にまとめます。
実践編の3端子レギュレータを使用した電源の回路はここまでです。特に補足記事内容が必要ない方は、その次の「PICKit3書き込み回路」の記事に進んでいただいて構いません。
更新履歴
日付 | 内容 |
---|---|
2018.3.24 | 新規投稿 |
3.3VとGND間に47uのパスコンを接続していますが、PICのVDDとVSSにも0.1uのパスコンが必要になりますか?
例えば、3.3VとGND間の47uのパスコンを47.1uにしたら、PICのVDDとVSSの0.1uのパスコンが不要になりますか?
いや、接続距離が関係するのかな??と自分の中でも理解不十分で質問させていただきました。
キャップさま、
ご質問どうもありがとうございます。
いろいろ疑問を持ちながら進められていてすごいです! 実はこのコンデンサはよく考えると不思議なんですが、この入門シリーズではここまで疑問に思われる人はいないかな、と思ってさらっと説明してしまいました。
質問いただきましたので、コメント欄で言葉だけになってしまい申し訳ありませんが詳しく説明します。
3.3VとGNDの間にすでに47uのコンデンサがあるのに、なんでわざわざ0.1uという小さい容量のコンデンサを追加する必要があるのか、よく考えると不思議ですよね。これには2つ理由があります。両方ともノイズの特性によるものです。
ひとつ目は、キャップさまがお察しいただいているとおり、距離の問題です。ノイズは電気を通すものであればどこからでも入ってきます。PICマイコンのノイズ軽減のためにパスコンをつけるわけですが、PICマイコンのVDD/VSSとコンデンサ間の距離が長いと、その間の電線にノイズが入ってきてしまいます。3端子レギュレータの出力側のコンデンサはPICマイコンから距離が離れて配置しますので、その間の配線からノイズが入りますので、ノイズ対策としてPICマイコンのVDD/VSSのすぐそばにパスコンは必要になります。
ふたつ目は、電解コンデンサはそれほどノイズ対策に有効ではないためです。電解コンデンサはたくさんの電気をためて電圧を安定化させるのが主目的になります。ここからは電子回路の詳細な説明がないと完全には理解できないのですが、簡単に説明すると、電解コンデンサと積層セラミックコンデンサはノイズに対する特性が異なっていて、電解コンデンサは電気を貯めることは得意なのですが、ノイズ信号に対しては除去できる能力がほとんどありません。
なお、3端子レギュレータのノイズ対策としてもっとしっかりやる場合は、出力側の電界の隣に0.1uの積層セラミックコンデンサを接続する場合もあります。(それぐらい電解コンデンサはノイズ除去の目的は果たさない、という感じです)
なおコンデンサの容量ですが、端数の容量のコンデンサはなく、1, 2.2, 3.3, 4.7, 6.8の数字を10倍したり10分の1にした値のみが用意されています。例えばこれらの数字を10倍すると、10, 22, 33, 47, 68ですので、47uであれば、次の数値は68uになります。