今回は3端子レギュレータの回路設計時の注意点を説明します。
3端子レギュレータの回路設計注意点
前回の記事で設計した3端子レギュレータの回路は、実装編のシステムで使用する上では問題ありませんが、ご自分で設計した回路で3端子レギュレータを使用する場合、以下の2点に注意する必要があります。
- 熱の対策
- 出力電圧上昇時の対策
それでは、それぞれの項目について以下に説明します。
1. 熱の対策
3端子レギュレータの使い方を確認しましたが、そもそも、という感じで、なぜ低い電圧に変換できるんでしょうか。例えば入力電圧として5Vにした場合、出力電圧は3.3Vで、5V → 3.3Vになるのはいいですが、残りの1.7Vはどうしているんでしょうか。
3端子レギュレータの働きを電圧変換とは別の観点で見てみると、この部品は以下のようなことをしているんです。
このように、入力と出力の差分を熱に変換して捨てることによって電圧を落としているんです。なんだかちょっともったいないですよね。いや、もったいないというより、省エネのこの時代、ずいぶんと贅沢な部品なような気もします。
「いらないものは捨ててる」なんて話を聞いた瞬間、誰でももったいないって思いますよね。当然ながら昔の技術者もそう思ったらしく、実は熱として捨てることがないように効率のいい変換を行う部品が開発されています(DCDCコンバータ、という部品です)。ただ、効率がよい分、部品は大きくなりますし、コストもかかります。
3端子レギュレータは、差分をどんどん熱に変換しますので、使い方によっては発熱により煙が出たりすることもあります。ということで、3端子レギュレータの回路を設計する場合、熱がどの程度発生するかを見積もり、発熱が大きい場合には対策をする必要があります。
そこで、この記事の最初の項目として、発熱を考慮した対策方法を以下の順番で説明します。
- 熱の発生量は何で決まるか
- 回路に流れる電流の見積もり
- 3端子レギュレータが消費する電力の計算
- 3端子レギュレータのデータシートで許容範囲か確認
- 許容範囲にない場合の対策
1. 熱の発生量
イメージといいますか、感覚で構いません。例えば以下の2つのケースではどちらが熱の発生量が大きいかというと、
差分が大きい方が発熱しそうですよね。12Vから3.3Vに変換する方が、熱として捨てる差分が大きいため、発熱量が大きくなります。その感覚で正解です。では次の2つのケースではどうでしょうか。
回路で必要とする電流が大きい方が3端子レギュレータの発熱量が大きそうですよね。その感覚も正解です。
3端子レギュレータの発熱量は、電圧(入力電圧と出力電圧の差)と必要な電流で決まります。具体的には、
電圧 x 電流 = 電力
の大きさで決まります。つまり、3端子レギュレータがどのぐらいの電力を捨てているのか計算すると、発熱の対策が必要かどうかがわかるんです。
それでは、これから電力の計算と熱対策必要の有無の判定方法を説明します。
2. 回路に流れる電流の見積もり
今回製作するシステムは、PICマイコン、センサ2個、LCDモジュール、LEDを使用します。これらが必要とする電流を見積もりますが、あまり厳密に計算しても、あとでだいたいこれぐらい、というように余裕を取りますので、だいたいで構いません。
PICマイコン自体はそれほど電流が流れませんので、せいぜい2〜3mA程度を見ておけば大丈夫だと思います。またセンサはデータシートを確認すると、ほとんど電流が流れません。LCDモジュールはデータシートでは1mA程度となっています。また、LEDを接続しますが、多めに見積もっても1個あたり10mA程度で十分だと思います。これが2個ですのでLEDでは20mAといったところでしょうか。合計で25mAぐらいですので、余裕をみて2倍の50mAぐらいを見ておけば問題ないと思います。(2倍はかなり余裕があります…)。
3. 3端子レギュレータが消費する電力の計算
次に、3端子レギュレータが捨てる電力を計算します。先ほど説明しましたように計算すると、以下のようになります。
4. データシート確認
3端子レギュレータが熱に変換する電力の値がわかりました。次にデータシートを見て、この電力が許容範囲内か確認します。
3端子レギュレータのデータシートを見ると、必ず「最大許容損失」という項目があります。3端子レギュレータで電力が熱に変換されて捨てられることから、この電力のことを「損失」と呼んでいます。損失が大きいと、より多くの熱が捨てられる、つまり発熱が大きくなますので、3端子レギュレータでは必ず許容される損失の最大値が「最大許容損失」として示されています。
それでは、今回使用する部品のデータシートを見てみましょう(部品は2種類ありますが、いずれもほぼ同じデータです)。
(東芝「三端子ロードロップアウトレギュレータ」データシートより抜粋、加工)
なんだか心が折れそうですが、頑張ってグラフを見ていきましょう。
このグラフは、横軸が周囲温度(単位: ℃)、縦軸が許容損失(単位: W)を表現しています。周囲温度は製品を使用するときの周りの気温です。この周囲温度は余裕を見て50度と想定します。
50度のところの許容損失を読み取ればいいのですが、グラフには何本か線があります。この中の「単体」という線を見ます。「単体」とは3端子レギュレータをそのまま使用した場合の許容損失のデータです。他にも線がありますが、それらは後で説明する「放熱器」を使用した場合のデータです。
周囲温度が50度の時の「単体」の許容損失を読み取ると、だいたい0.8Wぐらいでしょうか(グラフ中の赤丸)。
データから0.8Wと読み取れましたが、これはあくまで最大値です。実際に設計する場合は余裕をみてこの半分とします。つまり、0.4Wを許容損失とします。(7〜8割でも問題ありませんが…)
先ほど計算した3端子レギュレータで熱に変換される電力は0.085Wでした。0.4Wより全然低いので、実践編の回路では問題なしです。
例えば3端子レギュレータの入力電圧として、12VのACアダプタを使用し、回路としてはLEDをたくさんつけて、電流は200mAぐらい必要になる場合だとどうなるでしょうか。
3端子レギュレータで熱に変換される電力は
( 12V – 3.3V ) x 0.2A = 1.74W
ということで、先ほどの0.4Wを超えていますし、そもそも最大値の0.8Wも超えていますので、この場合は熱対策が必要です。
5. 対策
計算した結果、熱対策が必要な場合は「放熱器」または「ヒートシンク」と呼ばれている部品を使用します。3端子レギュレータで発生した熱を逃がすためにフィンが付いた金属です。
このヒートシンクはいろいろな大きさがあります。
どの大きさのものを選択するか、計算で求めます。厳密な計算方法は他にもいろいろな知識が必要ですので、概算方法を説明します。
ヒートシンクの特性は「熱抵抗」という数値で表現されています。「熱抵抗」とは熱をどのぐらい伝えやすいか、という数値です。例えば木と金属を比較した場合、同じ温度でも金属の方が冷たく感じますよね。これは、金属の方が熱を伝えやすいため、手で触った時に手の熱がどんどん金属に奪われてしまうためです。
熱を伝えやすい場合、熱を伝えるために抵抗するものがあまりないことから「熱抵抗が低い」と言っています。逆に熱がなかなか伝わらない場合、熱を伝える抵抗があることから「熱抵抗が高い」と言います。
それでは、どのぐらいの熱抵抗のものを選べばよいかというと、だいたい以下の目安で計算すれば大丈夫だと思います。
80 ÷ (3端子レギュレータの電力) − 8
この数値を計算します(結果の少数は切り捨て)。この数値より低い熱抵抗のヒートシンクを選択することになります。
例えば、3端子レギュレータの損失電力が3Wの場合、
80 ÷ 3 – 8 = 約18 (少数切り捨て)
になりますので、ヒートシンクは、熱抵抗が18以下のものを選択します。ヒートシンクのデータシートを確認します。
(グローバル電子「ヒートシンクデータシート」より抜粋・加工)
このヒートシンクのデータシートには2種類の熱抵抗値が書かれています。「脱脂」と「黒アルマイト」です。「脱脂」はアルミニウムのヒートシンクを磨いたままのもので、本体の色はアルミニウムの色のままです。「黒アルマイト」とはヒートシンクをアルマイト加工という加工を施して、熱をより逃しやすくしたもので、本体の黒色をしています。
ヒートシンクの黒アルマイトの熱抵抗を確認すると、上の製品の熱抵抗は「20.0」、下の製品は「15.8」ですので、先ほどの例の場合は下のヒートシンクを選択します。
なお、3端子レギュレータにヒートシンクを付ける場合、3端子レギュレータとヒートシンクの間の隙間を極力少なくするため、熱放熱シートやシリコングリスを塗ることも必要です。
以上が3端子レギュレータの熱対策です。3端子レギュレータを使用する場合、必ず許容損失を計算してヒートシンクが必要か判断するようにします。
過剰な出力電圧の対策
3端子レギュレータの入力電圧は、出力電圧よりも高いことを前提としています。
例えば、設計する回路がモーターを制御の場合、動作中に3端子レギュレータの出力端子の電圧が一瞬高くなることがあります。また、回路によっては電源を切った時、入力電圧はゼロにもかかわらず、出力端子の電圧がしばらく高い状態が続く場合があります。
このように、3端子レギュレータの出力端子の電圧が、入力端子の電圧よりも高くなった場合、3端子レギュレータが壊れる可能性があります。
出力端子の電圧が高くなった場合に、入力端子側に逃がすために以下のようにダイオードを接続する必要があります。
以上が3端子レギュレータの回路を設計する際の注意点になりますが、電子工作入門としてはかなり込み入った内容ですので補足として説明しました。
実践編ではここまでの知識は必要ありませんが、ご自分で回路を設計する場合、3端子レギュレータは発熱しますのでこのようなことを考える必要があることにご注意いただければと思います。
更新履歴
日付 | 内容 |
---|---|
2018.3.25 | 新規投稿 |
2018.12.6 | DCDCコンバータ記載追加 |
とても興味深い内容でした。
お手数をおかけしますがまた質問させてください。
回路に流れる電流が50mAの条件で、単三電池を3端子レギュレータの入力とした場合
①単三電池3本(4.5V)または②単三電池4本(6.0V)を使用した場合に
回路が何時間動作できるかが気になりました。
例えば、単三電池一本の容量が2000mAhとした場合
電池の電力量
① (2000mAh * 3本) * 1.5V = 9Wh
② (2000mAh * 4本) * 1.5V = 12Wh
消費電力
① 50mA * 4.5V = 0.225Wh
① 50mA * 6.0V = 0.3Wh
何時間動作するか?
① 9Wh / 0.225Wh = 40h
② 12Wh / 0.3Wh = 40h
①も②も同じ40hの動作時間という理解ですが合っていますでしょうか?
動作時間の計算を初めて実施したため、誤り等ありましたらご指摘いただけると助かります。
キャップさま、
ご質問どうもありがとうございます。
ご質問の件ですが、正しいです。ただ、電池の持ち時間を計算する場合は電流で計算して問題ありません。電流の場合、電池の本数に限らず、1本の容量(Ah/アンペア時)で計算します(電池が直列接続の場合)。
例えば1本2000mAhの電池を3本を直列接続で使用した場合、回路に流れる電流が50mAでしたら、2000 ÷ 50 = 40時間という計算でOKです。
なお、実践編で製作するシステムは環境測定ですので、40時間では困るので、実際には対策が必要です。まず50mAというのはかなり過大見積りで、実際の電流は、LEDは5mA/1個程度でセンサはほぼゼロ、PICマイコンとLCDモジュール合わせて数mA程度になると思います。この場合、十数mA程度ですが、LEDは1色を点滅させて(0.05秒点灯、0.95秒消灯の場合消費電流は1/20相当です)、PICマイコンは周波数を落とせばシステム全体の消費電流を3mA程度に落とせると思います。ここまで落とすと、2000mAh ÷ 3mA = 27日、ということで1ヶ月もちます。さらにスリープモードを使用すれば、1年ぐらい持たせることもできるのではないかと思います。
でもさらにもうちょっと進めて、太陽電池で動くようにできると環境測定装置って感じになるので、いずれはそこまで拡張してみたいです。
詳細な ご説明の おかげで、
第21回 ブレッドボードでの動作確認まで たどり着きました。
マルチメーターで消費電流を チェックしたところ、
LED の点滅に応じて 1.8mA 〜 7.7mA の間で変動しながら、
快調に動いてくれています。
電池駆動で全く不満は無いのですが、
不要の USB ケーブルがあったので、
カットして USBポート から 5Vを供給するようにしてみました。
移動する時は モバイルバッテリーの登場ということで、
この方式も アリかと?
この先も作動原理の勉強など高いハードルが待ち構えておりますが、
頑張って何とか ついて行きたいと思っています。
よろしく お願い致します。
junjunさま、
コメントどうもありがとうございます。
環境測定や天気予報装置にする場合は、通年で動作させた方がよいので、USBのACアダプタで電源供給するというのはいいですね。
屋外のようなACアダプタが使えないような場所に設置したい場合は、太陽電池+二次電池+本体という感じで、太陽光を使うのがいいのでは、と思っています。余力があればそのような記事も書いてみたいと思います。