Raspberry Pi OSについて理解を深めます。
今回説明する内容
ようやくRaspberry Pi OSのインストールができました。これからさっそく電子工作をしてNode-REDで制御したいところですが、、、
ソフトウエアの主役である「Raspberry Pi OS」って、名前ばかり出てきて、素性というか、どのようなOSなのかよく分かりませんでしたよね。例えばRaspberry Pi ImagerでインストールするOSを選択するとき、以下のような画面が出てきました。
「Raspberry Pi OS(32-bit)」の意味は説明しましたが、その下に書いてある
A port of Debian Bullseye with Raspberry Pi Desktop (Recommended)
ってどういう意味なんでしょうか。「port」は「移植」、「Raspberry Pi Desktop」は「ラズベリーパイのデスクトップ」(デスクトップ画面を表示・制御するソフト)の意味です。全体の意味としては、
ラズベリーパイのデスクトップ環境を同梱したDebian Bullseyeの移植版(推奨)
というような感じでしょうか。
また、Raspberry Pi ImagerアプリのOS選択画面で「Raspberry Pi OS(other)」を選択すると、上の表現とは微妙に違うことが書いてあるOSもあります。
ここでは先ほどの表現とはちょっと違って「Debian Buster」って書いてあります。
この「Debian Bullseye」や「Debian Buster」を理解しておくと、Raspberry Pi OSの全体像がより詳しく理解できます。
先を急ぎたいところですが、今回の記事では「Debian Bullseye」や「Debian Buster」という単語の意味を解明することによって、Raspberry Pi OSの理解を深めていきます。
Linux OS
唐突ですが「Linux」とか「Linux OS」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。Linuxは、WindowsやmacOSと同じく、OSの一種です。
ちょっと話がそれますが、「FireFox」というブラウザがあります。FireFoxのダウンロードサイトを開くと、以下のようにOSを選択することができます。
この選択メニューを開くと、以下のように「Windows」「macOS」と並んで「Linux」が表示されています。
このように「Linux」はWindowsやmacOSと同列に位置するOSなんです。
ところがLinuxは、WindowsやmacOSとはかなり様相が違います。一番大きな違いは「種類がたくさんある」という点です。
とはいっても、Windowsの世界でもWindows10やWindows11、HomeバージョンやProバージョンがありますし、macOSでもBig SurとかMontereyとかいくつか種類がありますよね。
でも、Linuxの「種類がたくさんある」というのはそのようなバージョンの違いやエディションの違いというレベルではないんです。Linuxの種類数は厳密に数えることは不可能で(その理由は後半で説明します)、数百種類というレベルに収まるものではないぐらい種類が多くあります。
Raspberry Pi OSはどこいった?という疑問もありますが、まずはLinuxの詳しい中身を見ていきましょう。
Linux OSの構造
普段、WindowsやmacOSを使うとき、OSの構造はほとんど意識しないと思います。一方で、Linuxを理解するためにある程度Linuxの構造を理解しておく必要がありますので、ちょっと退屈ですがお付き合いください。
Linuxの構造は、おおざっぱに説明すると、以下のように「Linuxカーネル」と呼ばれる土台となる部分と、それを取り巻くいろいろなソフトウエアモジュールから構成されています。
「カーネル」はコンピュータを制御するための基本的な部分で、メモリやファイルの管理、ソフトウエアの実行制御などを行っています。
この「カーネル」は基本的な制御しか行いません。人間とやりとりするインターフェースすら持っていませんし、デスクトップ画面やWebサーバとして動作するための機能もありません。結局、カーネル単体では何もできないわけです。
そこでLinuxカーネルに、デスクトップPCにように操作できるソフトウエアを組み合わせたり、Webサーバとして動作するモジュールソフトウエアを組み合わせたりして、macOSやWindowsと同じように機能するように、ひとつのOSとしてまとめます。
とはいっても、このような構造では、特にLinuxにたくさんの種類がある、という理由にはなりませんよね。
Linuxの一番の特徴は、カーネルやソフトウエアモジュールが「オープンソース」で作られている点です。
「オープンソース」とは、ソースコードか全て公開されていて、誰でも入手可能で、自由に改変したり、改変したものを頒布することができるソフトウエアのことです(改変や頒布の細かい内容についてはソフトウエアごとにライセンスで決められています)。
ということは、Linuxカーネルをベースに、自分に必要なモジュールだけを集めて自分専用のOSなんていうものも作れそうですよね。
というより実際にLinuxは自分でOSが作れるんです。以下のような参考書籍も出ています。
「自分で作るLinux OS」(日経BPパソコンベストムック)
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784822234263
このような背景がありますので、世の中では非常に多くの種類のLinuxがリリースされていています。
ここでひとつ言葉を覚えておきましょう。今までLinuxの「種類」と説明してきましたが、この「種類」のことを「ディストリビューション」と呼んでいます(ディストロあるいはディストリと略して呼ばれることもあります)。
「ディストリビューション」とは「頒布」という意味で、Linuxカーネルと必要なモジュールを組み合わせて、それを頒布しているもの、というようなイメージでしょうか。
先ほど説明したとおり、個人でもディストリビューションは作れてしまいますので、世の中にあるディストリビューションの正確な数はわかりません。とはいっても多くのディストリビューションの中でも、よく使われているメジャーなディストリビューション、というものがあります。例えば有名なところですと、AndroidスマホのOSはLinuxディストリビューションの1つです(当然オープンソースですので、誰でもソースコードがダウンロードできるように公開されています)。
そこで、Linuxの主なディストリビューションにはどのようなものがあるのか実際に確認してみましょう。
以下のサイトに今までリリースされた、ある程度有名なディストリビューションがまとめられています。
Linuxディストリビューション家系図
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Linux_distributions#/media/File:Linux_Distribution_Timeline_21_10_2021.svg(別ウィンドウで開きます)
なんだか、えっ、って感じですよね。最初は全体が縮小された状態で表示されています。1回クリックすると拡大できますので、適当な場所でクリックしてみてください。この図の見方について説明します。
新しくLinuxディストリビューションを作りたい場合、すでに近いものがあればそれを流用した方が手っ取り早いですよね。通常、新しくLinuxディストリビューションを作る場合は、多くの場合、すでにあるディストリビューションを流用、改変して作ります。
つまり、ひとつのディストリビューションを起点として、派生のディストリビューションが作られ、さらにその派生が作られ、、、という感じで、ディストリビューションは家系図のようになっています。
上のディストリビューションの図は、それを表現したものです。左側が先祖、右側にいくほど新しいディストリビューションになります。
Raspberry Pi OSの素性
ここまで説明してきましたので、すでにお気づきかもしれませんが、Raspberry Pi OSはLinuxディストリビューションの1つなんです。
ということは、先ほどの家系図のどこかにあるのですが、、、どこにあるか分かりますか?
等倍ではとても大きいサイズになりますので、縮小サイズで説明しますが、だいたい以下の矢印付近にあります。見つからなかったら、ブラウザの検索機能で「raspberry」と検索してみてください。
Raspberry Pi OSの位置がわかったら、祖先を辿っていくと、最初に「Raspbian」、さらに遡ると「Debian」というディストリビューションにたどり着きますよね。
つまり、「Raspberry Pi OS」は「Debian」から派生した「Raspbian」の派生ディストリビューション、ということになります。
Raspberry Pi OSのひとつの前の先祖「Raspbian」は、初代ラズベリーパイから2020年5月まで使用されていたラズベリーパイ用OSです。また、「Debian」は非常に多くのディストリを生み出した初代のディストリのひとつです。
Raspberry Pi ImagerアプリのOS選択画面には以下のように書かれていました。
A port of Debian Bullseye with Raspberry Pi Desktop
今までの知識をまとめると、以下のような感じでしょうか。
ラズベリーパイのデスクトップ環境を同梱したDebianディストリビューション Bullseyeの移植版OS
Bullseye・Busterとは?
残るは「Bullseye」や「Buster」の解明です。
結論から説明すると、「Bullseye」や「Buster」はDebianディストリのバージョンの愛称です。Debianディストリでは通常、バージョン番号ではなく、愛称で呼んでいます。以下に最近のDebianディストリのバージョン番号と愛称の対応をまとめます。
バージョン番号 | 愛称 | リリース月 |
---|---|---|
8 | Jessie(ジェシー) | 2015年4月 |
9 | Stretch(ストレッチ) | 2017年6月 |
10 | Buster(バスター) | 2019年7月 |
11 | Bullseye(ブルズアイ) | 2021年8月 |
12 | Bookworm(ブックワーム) | 2023年予定 |
Raspberry Pi OSの説明文をまとめると、以下のようになります。
ラズベリーパイのデスクトップ環境を同梱したDebianディストリビューションVersion11(ブルズアイ)の移植版OS
ということで、このRaspberry Pi OSはDebianディストリビューションをベースにして、ラズベリーパイ専用のモジュールやアプリを同梱したOSになります。
ところで、ディズニーアニメをよくご存知の方でしたら、バージョンの愛称は聞き慣れた単語ではないでしょうか。これらの愛称はトイ・ストーリーシリーズの登場人物の名前からきています。著作権の関係で画像は掲載できませんが、興味があれば調べてみてください。
補足ですが、Debianはだいたい2年に1回のペースでリリースされています。次のリリースは2023年秋頃の見込みですので、2023年末ごろに、おそらく
A port of Debian Bookworm with Raspberry Pi Desktop
というRaspberry Pi OSがリリースされると思います。
ところで、「Raspberry Pi OS(other)」の選択肢の中に、
A port of Debian Buster with security updates and desktop environment
と書かれていました。このディストリは「Debian」の「Version 10」で最新版のひとつ前のバージョンです。公式サイトでは、このように必ず古いバージョンのDebianをベースにしたOSも同時にリリースしています。
これは、ソフトウエアによっては最新バージョンのディストリでは動作に問題があるなど、古いバージョンが必要なユーザもいるためです。
LinuxOS補足
今まで、「Linux」や「Linux OS」という言葉を適当(?)に使ってきましたが、言葉について補足しておきます。
正確には「Linux OS」というと「Linuxカーネル」のみを指すようです。ただ一般的には、ディストリビューションの形になったものをLinux OSと呼ぶことが多いので、この入門シリーズでは「Linux」「Linux OS」は文脈に合わせて適宜使用しています。
更新履歴
日付 | 内容 |
---|---|
2022.4.8 | 新規投稿 |
わかりやすくて助かります。
どうもありがとうござます!
何かわからないことがありましたらコメント欄からご質問いただければと思います。